裏盆会


はその日、海の見える街に遊びに来ていた。
遠くに小さな島がたくさん見えて、暑い蒸気が海面から立ち上ると、
その緑の島が海面からまるで浮き上がっているように見えるのだった。
はあの四人と砂浜で貝殻を拾っては集めている。
「いくつ集まりました?」
「大きな二枚貝は十個かな。」
「少し少ないですね。巻貝も拾いましょう。」
「巻貝って、なんか砂にもぐってて、見つからないんだよ。」
「そうですねぇ。ああいう形ですから・・・・。」
「あ、巻貝あった。」
「おめぇが見つけちゃならねぇだろ。」
「だってあったんだもん・・・・。」
「ははは。」
には両親はいない。
どこか遠くに行ったのだ、とだけ四人からは聞かされている。
「ねぇ、ねぇ、般若くんも入れて遊ぼうよ。」
「あれはほっとけ。ああいう男なんだ。」
御頭が、なぜか不機嫌そうでした。
その晩。
四人で集まって話し合ってます。
は隣室ですやすや寝息をたててます。
べしみが貝の入った袋を前にため息をついています。
「こんなに貝ばかり集めてどうすんの?」
「これを焼いて百姓に渡してもいいがな。」
「あっ、石灰ですか。」
「石灰は石綿の原料で有毒だからな。これから海に流すぞ。」
「御頭の話は、俺にはさっぱりわかりません。」
「俺もです。ねー御頭、 ちゃんの前でそのタバコ吸ってる姿を出すのはやめてくださいよ。」
「うるさい。」
「で、般若はどうなるんですか?」
「あれは俺の監視役だからな。まあそのうち締めるから。」
「あの操さまにあてて書いた般若の愛の手紙を見つけたときの御頭はすごかったですよねー。」
「ふふ。」
「ねー、操ちゃんのことはどうなるんですか?一回助けたときから、あの娘御頭にもうぞっこんですよ。」
「あれはあれで使い道はあるんだ。先代の血は引いているからな。」
「御頭〜、一回自分の気持ちをはっきり操ちゃんに言ったほうがいいですよ。」
「未来に言う。」
「で、あの ちゃんは・・・・。」
そこで式尉が言いました。
「いいじゃねぇか。俺たちはこうして、時空のわけのわからねぇ場所をさまよっているんだよ。」
「えっ、ここはそういう異次元空間なんですか?」
「だからドリー夢なんだ。わかれ。」
「はい。わかりました御頭。でもなんか・・・・頭がヘンになりそうです・・・・。」
「べしみ。今は何年何月の何日だ?」
「たぶん明治11年です・・・・。」
「俺の勘では江戸時代だな。」
「そりゃそうですけど。」
「操がまだ生まれてません。」
「あれは『続タイムトラベラー』で芳山和子が目撃してショックを受ける、老人が赤ちゃんに先祖帰りした物体Xなんだよ。」
「これから老人ホームで生まれるんですね?」
「そうだな。北の将軍さまの下で修行でもするんだな。」
「冷たい言い方だなあ・・・・。」
「仕方がないだろ。あのタイプは俺は苦手なんだよ。」
翌日です。
その海岸の街では裏盆会が始まりました。
街の中にある、こげ茶色の木の電柱に、たくさんの紙製の灯篭がつるされて明りがともっています。
灯篭の光は、ゆらゆらと風にゆれていて、海の、そのもっと向こうにまで続いているようです。
「ねぇ、あの光のむこうにまで、 は行けるかな?」
こういうとき、御頭は黙っていて、あんまり何も には言ってくれません。
でも はそれでいいと思ったりもします。
不意にひょい、と の体が宙に浮きました。
「肩車しよう。」
「ええっ? 恥ずかしいよぅ・・・・・。」
ははずかしくて声が消え入りそうでしたが、やっぱり背の高い御頭の頭の上からだと、すごく遠くまで見渡せるので、とてもうれしくなりました。
その時砂浜の向こうの川の河口付近から、何か灯篭のようなものを流し始めているのが見えました。
もあれやりたいな。」
「あれか。あれはな。」
のお父さんとお母さん、どうしてるかな・・・・・。」
御頭はしばらく立ち止まって、黙って灯篭会の海面の上の明りの列を見ています。
と、ふと何を思ったのか、御頭は肩車の体勢からひょい、と を前抱きに抱きかかえました。
間近に御頭の顔が見えて、 は目をとっさにつむります。
何か唇にそっ、と触れたような気がしましたが、気がついたらそっ、と地面におろされてました。
べしみがぎょっ、としてあわてて言います。
「御頭、それ、目立ちすぎ・・・・・・。」
確かに目立つことでした。
その時般若がどうしていたかは、 は知りませんが、般若は般若で何か日記でもつけていたのかも知れません。
「よし。このヘンだ。」
と、突然御頭は何かひらめいたのか、火男の背中に背負わせていた、貝の袋を取り出しました。
「これからこれを海に流す。」
シュッ、と御頭がマッチで火を袋から出ている導火線のようなものにつけました。
なぜか は嫌な予感がしました。
その線は二重になっているようで、ぐるぐるととぐろを巻いていました。
御頭たちは船によいしょ、とその荷を乗せて海岸から灯篭の群れに向かって蹴りだしました。
御頭が蹴ると、その船はなぜかすごい速さで、灯篭の群れに向かっていきます。
「あの・・・それ・・・・灯篭じゃないから。・・・・・・。」
「おまえは黙って見ているんだ。」
「あっ、そうだ。今から が灯篭の絵を描くね。それを乗せてからにしたほうがいいと思う。」
はバカだな。」
「バカだけど、バカだけどさぁ・・・・・。」
「いいからいいから。」
御頭というか、蒼紫さまの貝を満載?した小船が灯篭のしずしずと進む列の近くに来たときでした。


どっかーん。

はっぱの大爆発の音がしました。

「やだー、 、こんなのやだー。」
蒼紫「さ、帰るか。」
式尉「なんか・・・・目が回りそうですよ。花火とも違いましたし・・・。」
その夜、また元御庭番衆の秘密会合がありました。
般若はあいかわらず欠席です。
御頭と式尉はすっかり意気投合した?のか、木箱の上で一升瓶をあけています。
「御頭が俺に配合を、黒色火薬を大目にしろ、って言ったんです。でもあそこまで入れたはずはなかったんだがなぁ。」
「おまえが入れたあとで俺が継ぎ足したそのあとからお前が又入れたからああなっただけだ。」
「俺は入れてないですからね。あとからは。」
「うん。おまえはそうだな。」
と、蒼紫様は式尉に杯を継ぎ足しています。
べしみは不満そうです。
「ねぇ御頭。なんでそんな ちゃんの夢を壊すことばかり二人でするんですか?」
「べしみにはわからん。俺たちの気持ちはな。」
「ひっ、ひどいこと言うなあ。」
「おまえがこれから をなぐさめるんだ。適役だろ。」
「えっ、俺なんかしてもいいの? ちゃんに。」
びかー、っと、蒼紫様の目がその瞬間ウルトラマンのように光りました。



「したらコロス。」


べしみは小さくなって、全身が汗みずくになって、震えながら答えました。
「はい、わかりました。」
火男は相変わらず、抜けているので、
「べしみ〜、そんなにかしこまらなくていいのにぃ〜。」
と、うなっています。おそらく酒が入ってよっぱらっているのでしょう。





その次の日、地方新聞の片隅に、裏盆会で爆発事故があったがけが人はなかった、と小さく三面記事が載りました。
明治時代にも、ひょっとして、そんなことがあったのかも知れません。

<おしまい>

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