OAV追憶編・星霜編感想

●追憶編●

大好きです。自分の理想?とする『るろうに剣心』が映像になっている・・・そんな感じで鑑賞させていただきま
した。私は物持ちがいい方ではないんですが、この作品だけは、ビデオボックスの中古品を買いました。剣で
の殺陣がとても迫力があり・・・これと匹敵する作品は、今のところまだ出ていないと思います。これは星霜編
も含めてです。

で、実は私は剣心はそんなに好きではないんですが、やはり巴さん・・・このキャラが本当に美しく、迷いなが
らも剣心を愛するにいたるまでが、非常に細かく描写されていて、見ていて納得できました。最初の婚約者の
清里が、幻影になって現れる場面(四巻)は、ちょっと難解でしたが、そんなイメージシーンもうまく演出されて
いて、どこを切っても私にとっては完璧に近い作品ではないかと思います。(私にとっては、ですが。)キャラ設
定もテレビ版のように目が大きくないかわりに、実際の人間に近く、喜怒哀楽が微妙に表現できていて、見て
いてひきこまれます。原作をより高度に演出した、この作品を嫌いな人は、あんまりいないのじゃないかと思い
ます。実際、某掲示板でもこの作品の支持者しか書き込まない状態が長く続きました。

ただ・・・・個人的な感想を述べますと、巴が剣心に身を許した場面・・・・これは、原作でもほのめかされている
のですが、巴の心理を考えると、なかった方がよかったのではないかと思いました。表面上の夫婦でいた方
が、最期取り残された剣心の心の悲痛さがより表現できたのではないかと思いました。そんな、一番の見
所?の場面を「ない方がいい」と言うのは、言いすぎかも知れませんが、巴が暗殺者として近づいた、その「復
讐心」の表現が弱くなってしまったと思われるからです。原作でもこの部分が非常にわかりにくくなっていて、
そのわかりにくさがそのままOAV作品になってしまったという観は、否めません。ま、これはあくまで個人的な
意見ですが。

あの場面は作画も力が入っていて、「見所」なんだな、というのはよくわかります。わかりながらも、私はこうい
う意見です。あんまり私は、そういう場面が出てくる作品は好きではないんですね・・・・。なんか、ベッドシーン
があるからいいんだろう、みたいな見方をされがちだし、それで作品としてまとまりを欠くのなら、やはりない方
がいいです。で、この場合、巴さんの清里への思いがあったのかどうか、という部分がたしか・・・・ベッドシー
ンをやりながら、巴のモノローグで入るんですよね。これは原作のまま、剣心に普通に打ち明けて巴が涙する
方がよかったと思います。

ま、巴さんとお願いしたい、そういう方にはあの演出でよかったと思います。元婚約者のことは、巴のモノロー
グですんでいるのですから。それが、この完璧に近い作品の、私が見つけた疵ではないかと思います。


●星霜編●

万人に好評な追憶編に対して、さんざんな言われようの星霜編です。ですが私は、演出としては、かなりこの
作品好きなのです。音楽のつけ方やシーンのカットの仕方とか、不自然な場面があまりないのですね。また、
剣心と薫さんのベッドシーンも、あまりそういう場面が大写しにならないので、追憶編よりは居心地が悪い思
いがしなくてすみました。追憶編は・・・みなさん清里の存在を忘れてしまうらしく、絶賛される人が多いのです
が、この剣心と薫の、正統な夫婦生活の場面はおおむね不評ですね。

で、この結末ですが・・・・以前私は「装甲騎兵ボトムズ」で、フィアナが死んでしまう話を見ていたので、そんな
に「自己満足」な同人的作品とは思わなかったです。人間、誰もが最期は死ぬんですから、それを最期までを
美しく描いてもらった、剣心は幸せものなんだなあ、と思いました。あの明るい原作をほぼ無視して作られたか
ら、いいと言う人は皆無に近い作品ですが、私はそう思いましたね。それに、出てくる剣心組のキャラがみん
な、「ああそうして今は生きてるんだなあ。」と思わせられる設定でしたので、見ていて不自然には感じません
でした。ただ、左之助が大陸に渡ったままなのは、見ていて寂しかったですけど。

で、剣心の病気を移してもらう薫さんの心理ですけど・・・・私はこれは「あり」だと思いました。そして、薫さん
のことが、ますます悲しい人に思えてならなかったです。もともと原作で、明るい活発なヒロインとして設定さ
れ、それに対して日本の美徳を絵にかいたような巴さんと張り合わなければならなくなり、彼女自身も無理を
したのだと思います。「共有できる何かがほしかった。」と言うセリフがありますが、子供だけじゃだめだったの
でしょう。そのあたり、剣路が剣心をあまり父親として好きでないセリフが出てくるので、より薫さんの孤独さが
伝わってきます。

私は実は、この星霜編に出てくる剣心は、例外的に好きなのです。縁に手をついてあやまる場面とか、よれよ
れになって記憶もあやふやな老人になっていたり、まあ普通に見て「かっこわるい」場面が後半連続するので
すが、私は剣心のこういう面が描かれていて、初めて剣心を好きになることができました。テレビや追憶編で
は、まだ「すぐに立派なことを言う主人公」として、あまり好きでなかった剣心ですが、ここまで描かれたら「認
めた」と思いました。「あしたのジョー」が真っ白になって燃え尽きたように、剣心も頬の傷が消えたことで、そ
のひとつの生涯を完遂したのだと思います。



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